同じ「痛み」でも急性痛と慢性痛は別物
急性痛は、指を切ったり転んで足をくじいたり、あるいは虫垂炎や胃潰瘍を起こしたりというように、はっきりした原因があって生じる痛みで、レントゲンやMRIなどの画像検査によって痛みの原因を見つけることができます。ケガや病気によって生じる症状の一つが急性痛という考え方なので、治療も痛みそのものではなく、痛みを起こしている原因(ケガや病気)が対象になります。
一方慢性痛は、原因がはっきりしない痛みで、痛みそのものが治療対象になります。
国際疼痛学会では慢性痛を「急性疾患の通常の経過、あるいは創傷の治癒に要する妥当な時間を超えて、長期(3か月または6か月)にわたって持続する痛み」としています。「3か月または6か月」と期間に幅があるのは、ケガや病気の程度、損傷したのがどの組織か、あるいは個々人の栄養状態などによって、治癒にかかる時間に差があるからです。
たとえばかすり傷と、手術や入院を要するような大怪我では、当然、治癒に要する時間が異なることはご理解いただけるでしょう。
つまり慢性痛は、「痛みの原因となるようなケガや病気はとっくに治っているのに、痛みだけが消えずに続いている」しつこい痛みを指します。
あなたを苦しめている痛みが、原因と思われるケガや病気が軽減、あるいは取り除かれ、「身体の危険を教えてくれる火災報知器」としての痛み本来の役割が不要になったにもかかわらず3か月以上または6か月以上続いている場合には、慢性痛を疑います。
慢性痛は、さまざまな要因が絡み合って起きるので、原因を単純に特定することはできません。
診断ではまず、臓器・骨・関節などに腫瘍や障害がないことを明らかにします。痛みが急性痛ではないことを確認して初めて、慢性痛として、運動療法や心理療法などを含めた具体的な治療法の検討に入ります。
急性痛と慢性痛では、痛みの仕組みも、治療の有効性もまったく異なります。
たとえば、急性痛によく効く非ステロイド系消炎鎮痛薬は、慢性痛には効果がありません。ほとんどの慢性痛は組織の障害も炎症もないからです。もしも今、病院で処方された痛み止めが効かなくて我慢できない時には、「もっと強い薬」を要求するのではなく、いたきんネットに参加している医療機関にご相談ください。
いたきんネットでは、整形外科、麻酔科ペインクリニック、脳神経内科、心療内科、精神神経科、歯科口腔外科、産業界、介護施設、かかりつけ医など、様々な医療機関やそこで働く医療者が連携して、近畿地域全体で患者さん一人一人を支えられるような集学的医療体制の構築に取り組んでいます。あなたのお近くにもきっと、連携医療機関があるでしょう。
それらの連携機関の医師は慢性痛についてきちんと勉強しているので、あなたの痛みが急性痛なのか慢性痛なのかを正しく判断し、自分のところだけでは対処しきれない場合には、滋賀医科大学医学部附属病院、千里山病院、関西医科大学附属病院、大阪大学附属病院、兵庫医科大学附属病院、富永病院、京都府立医科大学附属病院、川崎医科大学附属病院などの集学的医療が可能な施設に紹介してもらえます。これらの施設では、医師だけでなく、臨床心理士、看護師、理学療法士、作業療法士、ソーシャルワーカー等多職種の専門スタッフが参画する「集学的治療」を受けることができます。
集学的治療とは、従来の薬物療法、神経ブロック療法、手術など、一般的に行われてきた治療法では寛解しない慢性痛(難治性慢性痛)に対して、患者を心理的・社会的な面も含めて全人的に診て、さまざまな医療専門職がチームを組み、多方面からアプローチする治療法(生物心理社会モデルにもとづく集学的治療法)のこと。その有効性は国際的にも認められています。